電線にかけられたシューズ
LAの住民となって1カ月になろうとしている。先日、自宅付近で電線に使い古しのシューズがかけられている様を目にした。

90年代後半から2000年代前半にかけて、何度かニューヨークの貧困地帯、サウスブロンクスのプロジェクト・アパートを歩いた。その折にも、こんな光景を見た。当時、同地区の住民から、「亡くなった人への追悼だ」と説明されている。この頃、ニューヨークでは市民の19分の1にあたる42万人が、プロジェクトで暮らしていた。
第二次世界大戦後、ニューヨーク市は345箇所にプロジェクト・アパートを建て、格安で貸し出した。貧しさに悶える人々が犯罪に走る傾向にあるのは、万国共通だ。サウスブロンクスでも無数のギャンググループが誕生し、抗争を繰り広げた。
そんな中で、命を奪われた仲間を思い、遺品であるシューズをストリートの目に付く場所に掲げるのだと、彼は語った。
「歩けなくなった隣人も多いんだ。おそらく、敵対するギャングに撃たれたんだろう。ほら」
彼の視線の前方には、30代に見える黒人男性が車椅子の両輪に手をかけながら、信号が青に変わるのを待っていた。その日、私がサウスブロンクスで目撃した車椅子利用者は4名、ワイヤーに吊るされたスニーカーは5組であった。

LAでも、ギャングのメンバーや顔馴染みを偲んで、組織犯罪との関連性やギャングの縄張りの象徴、あるいは麻薬取引の場所、近くにクラックハウスがあることを示すもの等様々な説がある。
元LA市長のジェームズ・ハーンは、2003年に記したニュースレター内で、多くのLA市民が「これらの靴は、麻薬の販売場所、またギャングのテリトリーの証と受け取っている」と記した。そして、市と公益事業の職員の手で靴を撤去するプログラムを開始したことも報じている。
しかし、誰が、いかなる目的で靴を電線にかけたかを判明するのは困難であり、何名かの警察官は作り話だと結論付けたそうだ。単なる遊びだと主張する者も、結婚したカップルが古い靴を投げて幸運を祈る文化だとする者も、肩越しに靴を投げて将来の結婚を予言する伝統があるという者もいる。
ただ…LAでは、貧困と関わりがあるのは間違いなさそうだと私は感じる。
林 壮一 ジェイビーシー(株)広報部 / ノンフィクション作家


