考える人
灼熱の太陽が「考える人」像を照らしていた。
気温36℃という7月のある日、JR上野駅前にある国立西洋美術館前の銅像が日光を反射している。
この作品や「カレーの市民」の創作者としてあまりにも有名な彫刻家、フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンの作品を見ながら、なかなか評価されずに塗炭の苦しみを味わっていた時期の彼に想いを馳せた。
呻吟しながらも、ロダンは作品作りを止めなかった。ひとつひとつの創作に魂を込め、何度も納得できないとその手で壊しながら、完成を目指した。今や世界に名を残すロダンだが、10代の頃には、国立高等美術学校の受験に3度失敗している。この時、パリ警視庁に勤務していた父は、愛息の将来を案じて手紙を送った。
<愛するオーギュスト 仕事について>
成功を望む者は、目標に到達するだろう。だが、そのためには本気で望まねばならない。そうすれば、それを成し遂げる意思を得る。つまり、必要なのは雄々しい精神力だ。
私が恐れているのは、お前が弱腰のお人好しになりつつあることだ。なぜなら、お前は落胆したまま甘んじているように感じられる。ただ、それは絶対にしてはならないことだ。活力をもって、どんなに僅かな心の緩みも拭い去らねばならない。
自分に言って聞かせなさい。「私は成功を望む。不屈の精神でそれを手に入れ、自分の仕事で単なる労働者を超えた人間になれる。自分には天賦の才があり、成功を欲しているのだ」と。
精神力、意志、決意、こうした言葉について考えてみなさい。それが勝利につながる。
砂の上に未来を築いてはいけない。そんな状況では、些細な嵐でもお前の未来を壊してしまう。強固で永遠に持ち堪えることのできる土台の上にこそ、将来を創るのだ。
後にロダンの才能が開花するのは、本人の精進、彫刻に対する姿勢が因子に挙げられるが、この父親の励ましも大きかった。心の緩みを払拭する行為が、ロダンを唯一無二のアーティストへと後押ししたのだろう。
今日、国立西洋美術館の常設展には、175の作品が飾られている。見る人によって、反応は様々だ。が、どれもが創り手本人の血が通った労作である。
「考える人」を目にしながら思った。この人の成功の陰には、彼にたっぷり愛情を注いだ父親の存在があったのだ、と。
自分を信じられる力とは、身近な人、環境によって育まれるのかもしれない。
JBC Autoも整備するお客様の車を、作品と捉えて全力で挑んでいます。
林 壮一 ジェイビーシー(株)広報部 / ノンフィクション作家
