Skid Row
ロスアンジェルスのダウンタウンにSkid Row(スキッドロウ)と呼ばれる一角がある。高層ビル街の東側、リトルトーキョーの南側に位置する50ブロック程のエリアだ。同地区では、これでもか、という数のホームレスを見かける。
市の発表によると、2024年には推定3,800人がSkid Rowで生活しており、そのうち約70%には住居が無い。ロスアンジェルスで最もホームレスが密集しているこの地域は、薬物使用や精神疾患、HIV感染者が呻吟している。また、ドラッグの過剰摂取による死亡率がロス内で最も高い場所でもある。
Skid Rowでは、視点が定まらずに地べたに寝そべっている者、道に横たわっている者、意味不明なことをがなり立てている者などの姿を目にする。どの顔を見ても、社会復帰への道は険しそうだ。
2023年6月、支援団体がSkid Rowで暮らすホームレス2,500人に、住居と生活支援を掲げて、カリフォルニア州から6,000万ドルの助成金を得た。
「6000万ドルの助成金とは、我々が納めた税金がホームレスに使われるって事だな。汗水垂らして必死で働いた金の使い道として正しいのか、疑問を感じざるを得ない。彼らは自分の判断でホームレスを選んだんじゃないのか」
そんな声も聞こえてくる。
1870年代にロスアンジェルスに鉄道が敷かれるまで、現在のSkid Rowは農業地帯だった。流動性を高めた1880年代以降の半世紀に、労働者層向けの小さなホテルがいくつも建てられる。移民労働者の多くが独身男性であったため、飲み屋、売春宿、その他非合法ビジネスが生まれた。
1930年代の大恐慌期には、家族や仕事を失った多くの農民や労働者が中西部や南部から当地に流れ着いた。アルコール依存症となった人間も少なくなかった。そうした人々の一部が同地域に定住する。また、第二次世界大戦とベトナム戦争の間、多くの軍人や若者がこの地区を通過し、時に避難所となる。薬物やアルコール中毒、そして心に深い傷を負ったベトナム帰還兵の多くがSkid Rowに惹かれ、居着くようになった。
この一角は、好んで訪れたくなる場所では決してない。しかし、戦地で精神を病んでしまったベトナム帰還兵が住んでいると聞くと、そうそう邪険には出来ない。激しい悪臭に鼻を摘みながら、あるテントにそっとミネラルウォーターを差し入れた。
林 壮一 ジェイビーシー(株)広報部 / ノンフィクション作家
